世界的な廃タイヤ魚礁の見直し

環境保全

海洋環境保全への関心が高まるなか、かつて魚礁として海中投棄された廃タイヤが環境に悪影響を及ぼしているとして、世界的に見直しが進んでいます。

 海洋環境保全への関心が高まるなか、かつて魚礁として海中投棄された廃タイヤが環境に悪影響を及ぼしているとして、世界的に見直しが進んでいます。

 世界で年間に発生する自動車用の廃タイヤは推定で約10億本とみられています[1]。 現在、廃タイヤがリサイクルに供される率は我が国では約9割近くに達していますが、その多くは焼却による熱源としての再利用であり[2]、廃タイヤを再生素材として活用する技術は未だ研究途上なのが実情です。

 廃タイヤを沿岸海域に投棄して魚礁として利用する構想は1960年代にさかのぼります。主にタイヤメーカーが中心となって呼びかけをおこないました。この頃はまだ廃タイヤを回収してリサイクルするための社会的な仕組みが整備されておらず、毎年大量に発生する廃タイヤの処分はタイヤメーカーにとっても、社会にとっても、大きな課題だったからです。

 廃タイヤは、コンクリート製などの魚礁と同様に生物の蝟集効果があり、耐用年数も同様に30年近くあることで優れた魚礁として機能することが期待されました。このため、1970~80年代にかけて、廃タイヤの海中投棄が世界的におこなわれました。米国では約1000カ所を超える廃タイヤの人工漁礁が設置されたとされ、特に大規模なフロリダ州沖では約200万個のタイヤが投棄されました。フランスのコートダジュールでも数万個のタイヤが投棄されています[3]。そして、我が国でも国の沿岸漁業整備開発事業として、廃タイヤを利用した魚礁づくりが39事業実施されたといいます[4]

 しかし、廃タイヤの海中投棄は、その後、様々な課題を突きつけることになりました。嵐などの影響で廃タイヤが魚礁から流出し、大量に浜辺に打ち上げられたり、サンゴ礁を傷付けるなどの事例が起きたほか、流出した廃タイヤが海中で破砕し、ゴム片が海中にばらまかれることになったのです。ゴム片が海中で分解されることで、かつてはないと考えられていた化学物質の溶出も懸念されています[5]

 海を豊かにする目的で投棄された廃タイヤが環境に負の影響を与えていることが明らかになり、2000年代に入ってから、アメリカやフランスでは海中からの廃タイヤ回収がおこなわれています。フランスでは2019年までに約2万5000個の廃タイヤの回収がおこなわれたほか、アメリカのフロリダでは、かつて海中投棄された廃タイヤ200万個のうち数十万個が回収されたとみられています[6]

 我が国では、廃タイヤ魚礁が沿岸漁業に少なからず貢献していることと、流出防止の措置がなされていることで環境への負荷が大きくないことなどから、現時点で行政による回収の動きはありません。ただし、海洋プラスチック問題とあわせて、今後、クローズアップされるようになるかもしれません。

補注・参考文献

  1. World Business Council for Sustainable Development, Tire Industry Project (TIP)
  2. 一般社団法人日本自動車タイヤ協会「廃タイヤ(使用済みタイヤ)のリサイクル状況
  3. 廃タイヤの人工魚礁、狙い外れ海洋環境に悪影響」AFP BB News, 2015年6月2日。
  4. 一般社団法人マリノフォーラム21「水産基盤整備生物環境調査(リサイクル材を活用した魚礁の検討調査)」(2002)
  5. 近年の研究では、海から俎上する鮭にとってタイヤから出た酸化防止剤の変成物が猛毒の効果をもたらすことが明らかになっている。Science “A ubiquitous tire rubber–derived chemical induces acute mortality in coho salmon” VOL. 371, NO. 6525. (2020)
  6. Lisa J. Huriash “‘We’ll never be done’: The growing challenge to remove thousands of car tires from ocean floor” Phys.org, 2023年6月7日。

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