リーフアクアリウムの社会的価値とは?

ビジネス, リーフアクアリウム, 環境保全, 生態系

CORERALは、地球上で現在進んでいるサンゴを取り巻く厳しい状況と、リーフアクアリウムが持つ社会価値を重視し、人工ライブロックとサンゴの陸上養殖事業に取り組みます。

サンゴ礁は海のゆりかご

 サンゴ礁は、カルシウムで骨格を形成するサンゴ(造礁サンゴ)の死骸が折り重なり、その上にサンゴが育つことでつくられた自然の地形です。世界に分布するサンゴ礁の総面積は60万平方キロメートルに及びますが、地球の全表面面積でみると、割合はわずか0.1%に過ぎません。これはサンゴが水温18~30度の暖かいところで、かつ太陽光が届く水深までしか生息しないためです(宝石サンゴと呼ばれる種を除く)。

サンゴ礁は動物プランクトンから大型捕食魚までの大小様々な多くの生き物を育みます。

 

 サンゴ礁は、海に占める割合はわずかですが、確認されている生物種は9万種を超えており、海水魚のうち4分の1に相当する4000種が生息しているといいます[1]。これは、サンゴとサンゴ礁が食物連鎖の重要な部分を担い、魚たちをはじめとする多様な生きものにとってかけがえのない存在であることを示しています。サンゴ礁がしばしば「海のゆりかご」と称されるのは、このような生物多様性を担う存在であることを表現しています。

サンゴ礁は危機的な状況に

 生物にとっての「海のゆりかご」であるサンゴ礁。このサンゴ礁が、いま危機的な状況にあります。サンゴ礁に生息するサンゴが急速に死滅しているのです。

死滅した後の枝サンゴ(ミドリイシ)の群落。海藻と沈殿物に覆われ、魚影は少ない。

 

 2008年の時点で世界のサンゴ礁の19%がすでに失われたといわれています。さらに15%が危険な状態で、10年以内に失われる恐れが高いといわれています。2020年11月、国連環境計画(UNEP)は、今世紀中に世界の海ですべてのサンゴ礁が消失する恐れがあるという報告書を発表しました[2]

サンゴが死滅する白化現象

 サンゴが死滅する原因はサンゴの白化です。サンゴは、体内に褐虫藻という植物プランクトンを共生させて、褐虫藻が光合成で生産した酸素と栄養で生きています。このサンゴと褐虫藻との相互関係については、いまだ詳しいメカニズムが解明されていませんが、 おおむね海水温が30度以上続くと褐虫藻が抜け出してしまい、サンゴが生きていけなくなる白化現象を生じさせていると考えられています[3]

白化した枝サンゴの群落

白化した枝サンゴの群落。“白化”(Breaching)とは、文字通り白くなることです。高水温や酸性化などでサンゴに共生する褐虫藻が抜けだし、光合成が出来なくなります。

 

 褐虫藻が抜けだしたサンゴは、骨格である炭酸カルシウム(石灰石)で白くみえます。サンゴはいちど白化しても褐虫藻が戻れば元気を取り戻しますが、白化が2週間ほど続くと死んでしまいます。最近の研究では、気候変動による高水温に耐える褐虫藻も存在し、慣化するサンゴもいると見られていますが[4]、大部分のサンゴは適応できずに死滅していくと考えられています。

 地球温暖化によるサンゴへの影響は海水温だけではありません。二酸化炭素が海中に溶けることで海水が酸性化していることもサンゴ礁へ大きな影響を与えていると考えられています。サンゴの骨格形成である炭酸カルシウムの形成が酸性化によって阻害されるからです。

サンゴ移植の取り組み

 白化によってダメージを負ったサンゴ礁を復活させようと、国内外でサンゴの移植活動がおこなわれています。海から採取したサンゴを親株として、陸上養殖で育てたサンゴの子株(クローン)を再び海中に戻す取り組みです。

沖縄県恩納村の海域で移植用に養殖されているサンゴ。Google ストリートビューで見ることができる。

 

 我が国では沖縄県を中心に、行政と民間が協力して積極的にサンゴの移植をおこなっています。移植したサンゴが順調に成長し、産卵と受精によって幼生を海中に供給することで、サンゴの被覆面積を増やすことが目標です。しかし、残念ながら専門家によれば移植後の残存率は平均で40%以下、場所によっては10%以下であると指摘されており[5]、すでに失われたサンゴ礁を移植で復活させるには厳しいのが実情です。

 国内外で多くの人によって取り組まれているサンゴの移植は、サンゴ礁の保全に欠かせない取り組みです。しかし、移植による効果はサンゴの減少を抑止できず、サンゴの絶滅をくいとめる目処は立っていません。

リーフアクアリウムは「分散型種の保存」が可能な趣味

 ところで、1990年代以降の技術進歩は、家庭内の水槽でサンゴを飼育することを可能にしました。それまで飼育が困難だった造礁サンゴ(ハードコーラル)を水槽内で活かすだけでなく、成長させることもできるようになったのです。

分割して育てられている枝サンゴのクローン子株。セラミック製のプラグに活着して水槽内で成長したものは“フラグ”としてC2Cマーケットで取引されている。

 

 例えば、枝状のハードコーラルであるミドリイシでは、成長が早い種で年に10~20センチも成長します。これら成長した親株の一部を割って個人間でやりとりする文化は、最近のオンライン取引サービスを介して、“フラグ”マーケットという新しい流通形態も生み出しています。

ハードコーラルが増殖するリーフアクアリウム水槽。

 

 家庭内の水槽でサンゴの育成技術が確立されたリーフアクアリウムは、すでに海で生き延びるには厳しく、絶滅の危機に瀕しているサンゴを、後世に残す手段として貢献できるのではないでしょうか?サンゴに関しては、ほかの絶滅の危機に瀕している多くの動植物種では困難な「分散型種の保存」が可能だからです。リーフアクアリウムは、生物多様性を維持する社会的な価値をもった趣味であるといえます。

リーフアクアリウムは拡大傾向

 リーフアクアリウムがサンゴを後世に残し、生物多様性を維持する効果を持つならば、その社会価値は評価され、維持され、振興されるべきでしょう。リーフアクアリウムは水槽内で生態系を再現する趣味です。リーフアクアリウムの普及は、人々に生態系への理解と地球環境への意識を促す教育効果が期待できます。人々の意識の高まりは、いまだ謎が多いサンゴに対する研究を後押しし、サンゴ礁の保全や海洋環境保護活動にプラスに作用するはずです。

 幸いにも国内では、アクアリウムの分野において海水魚やサンゴは今後の飼育希望が多く[6]、近年の新型コロナウイルス蔓延による在宅機会の増加も後押しして需要が伸びています[7]。世界規模でもマーケットの拡大が予想されています[8]。とくに今後、新興国の経済発展によって所得水準が上がれば、リーフアクアリウムが大きく普及していくと思われます。

天然から養殖への急速なシフトが必要

 リーフアクアリウムで実現できるサンゴの「分散型種の保存」と地球環境への教育効果という社会価値から、リーフアクアリウムが拡大傾向にあることは望ましいといえます。しかし、一方で現在リーフアクアリウムで流通している資源――海水魚・サンゴなどの生体やライブロック――の多くは、いまだ天然由来のものが多くを占めています。

人工ライブロックは擬岩を人工海水に浸漬することで天然ライブロック代替品となります。

 

 サンゴは規制が強化され、天然採取のものから養殖個体へのシフトが進んでいますが、今後のリーフアクアリウムの普及拡大と需要の増加を考えると、天然から養殖へのより急速なシフトが必要です。リーフアクアリウムの普及拡大が、かえって天然資源の乱獲や枯渇を促すことになってはなりません。

人工ライブロックと養殖サンゴは地産地消が望ましい

 大気に排出される二酸化炭素量ゼロを目指すカーボンフリーの観点からは、ライブロックやサンゴの養殖シフトは地産地消でおこなわれることが望ましいと考えます。なぜなら、輸送段階で消費される燃料で二酸化炭素が排出されるからです。

 

 例として、インドネシアのバリ島周辺の沿岸部で養殖されたライブロックやサンゴが日本に輸入されることを考えてみましょう。国際貨物の航空輸送だけで、輸送重量キログラムあたり概算約5.0kgの二酸化炭素排出量が生じます[9]。これはスギの木1本が光合成で吸収する二酸化炭素量4カ月分に相当します。 

 ライブロックとサンゴは、すでにリーフアクアリウムにおいて確立された技術と設備によって陸上養殖が可能です。地産地消型の陸上養殖こそ、カーボンフリーの観点からは望ましい選択肢なのではないでしょうか?

陸上養殖におけるカーボンフリーへの取り組み

 陸上養殖では、水の浄化や水流、照明などを担う機器が電気を消費し、それにともない二酸化炭素の排出が生じます。当社計測の理論値による養殖工程での二酸化炭素排出量は、人工ライブロックでキログラムあたり2.8kg、養殖サンゴが同5.6~10.6kgです。

リーフアクアリウムで消費される電力は再生可能エネルギーを選択することでカーボンオフセットが可能です。

 

 サンゴは水槽内の養殖期間が長いために二酸化炭素排出量が多くなりますが、陸上養殖設備における消費電力を太陽光や風力などの再生可能エネルギーに切り替えることでカーボンフリーの実現が可能です。

 養殖工程において、人工ライブロックはセメントの水和反応によって、養殖サンゴは光合成による成長で、ともに二酸化炭素を炭酸塩として吸収・固定する機能があります。原料と消費電力のカーボンフリーを実現すれば、人工ライブロックとサンゴの陸上養殖によって二酸化炭素の回収も不可能ではありません。

 CORERALは、人工ライブロックとサンゴの陸上養殖事業を通じて、社会価値を有するリーフアクアリウムの普及拡大と海洋資源の養殖シフト、地産地消による二酸化炭素排出削減に貢献していきます。

 

補注・参考文献

  1. Spalding, M.D., Ravilious, C., Green, E.P. “World Atlas of Coral Reefs. Prepared by the UNEP-World Conservation Monitoring Centre” , University of California Press, Berkeley, USA (2001).
  2. Projections of Future Coral Bleaching Conditions using IPCC CMIP6 models: Climate Policy Implications, Management Applications, and Regional Seas Summaries” UNEP (2020).
  3. 沖縄県「平成22年度 サンゴ礁資源情報整備事業報告書」(2011).
  4. Kazuhiko Sakai​​, Tanya Singh​, Akira Iguchi “Bleaching and post-bleaching mortality of Acropora corals on a heat-susceptible reef in 2016” PeerJ -8138 (2019).
  5. 大森信「目標は植込み3年後の生残率40%以上-サンゴ移植の現状および課題と方向-」『みどりいし』No.27, 1-4頁, 一般財団法人熱帯海洋生態研究振興財団 (2016).
  6. 一般社団法人ペットフード協会「令和2年 全国犬猫飼育実態調査」 (2021).
  7. 株式会社富士経済「2021年 ペット関連市場マーケティング総覧」 (2021).
  8. “Aquarium Market Size will grow at CAGR of 6.7% During 2021-2025 with Top Countries Data” 360 Research Reports (2021).
  9. 国土交通政策研究所「物流から生じる CO2排出量のディスクロージャーに関する手引き」(2011). 国際航空輸送の二酸化炭素排出係数0.903kg-CO2/tkmに対してバリ~成田間の飛行距離5570kmで算出した。

関連記事一覧