障がい者支援の取り組み

ダイバーシティ, ビジネス, リーフアクアリウム

CORERALは、障がいを持つ人にとって新しく、クリエイティブな仕事を社会に創出することを目的として、人工ライブロックとサンゴの陸上養殖事業をスタートさせます。

日本人の7人に1人が身心に障害を抱えている

 我が国において、身体や心に障害がある人の数は約965万人で、全人口の約7.6%を占めています[1]。政府は、障がい者の社会参画を促し、多様性にもとづく社会をつくるため、企業に対して事業所の規模に応じた障がい者雇用を法令で義務づけています。現在の障がい者の法定雇用率は2.3%(2021年3月改正時)ですが、法定雇用率を達成している企業の割合は半数を下回っています。

厚生労働省『令和3年版 障害者白書』(2021)より。各区分には複数の障がいを併せ持つ人を含む。

 

障害者福祉支援サービス施設における就労支援

 企業に就職できる障がい者は、障害の程度が比較的軽度の方であるのが実情です。福祉施設では、障がい者である施設利用者に対して各種の支援がおこなわれており、企業への就職を目標とした就労支援もおこなわれています。施設内での就労支援は、主として外部企業の委託に応じた業務を代行する形でおこなわれています。

 就労支援対象の利用者と同じく、生活のサポートが必要な区分の障害の程度が重い方々も、施設スタッフのサポートを受けながら施設内で軽作業に従事しています。しかし、作業の内容は製品の袋詰めなど、概して単純で繰り返しの単純作業がほとんどで、施設利用者である障がい者本人とその家族にとって、よりクリエイティブでやりがいを感じる仕事をいかに作り出すかが求められています。

最初から障がい者向けに事業設計する

 企業にとって障がい者の雇用を法令で義務づけるのは、それだけ後ろ向きになる理由があるからです。企業経営者と従業員の障がい者に対する認識不足はもちろんありますが、すでに健常者を対象に出来上がっている業務フローを新たに障がい者向けに再検討することは、企業にとって非常に大きな負担となります。

 では、最初から障がい者向けに業務フローや製造工程を設計すればどうでしょうか?障がい者が活躍できる職場環境は、健常者にとっても快適で、事故がない安全な職場環境になるメリットがあります。ユニバーサルなデザインになるからです。 

 しかも、最初から障がい者向けに事業設計するメリットはユニバーサル・デザインにとどまりません。グローバルな規模で社会価値の実現を目指す動きが強まっている現代社会では、ビジネス強度そのものの強化につながるのです。

障がい者支援による事業設計はビジネス強度を生む

 従来のCSR(企業の社会的責任)が得てしてプロモーションにとどまっていたのに対し、近年のSDGs(持続可能な開発目標)とESG(責任投資原則)、ルール形成などの潮流は、企業の事業戦略そのものに影響を与えるようになりました。企業は、事業戦略の策定において、社会価値(共通善)の実現を盛り込む必要に迫られています[2]

現代企業が直面するのはマーケット(市場)よりも広いソーシャル(社会)です。

 

 これまで企業は「市場」に向き合ってきました。良い製品やサービスを供給して受け入れられ、売上が増えることこそ企業価値であると考えられてきたからです。もちろん、売上の増大やシェアの確保は、いまでも企業が存続するうえで必要な命題です。しかし、企業を従来の「市場」から「社会」へと向き合わせるのが現代の潮流です。一見すると企業の売上に直結しそうにない社会課題に対していかにアプローチし、“自分事”として責務を負う過程で価値創出につなげていけるか。そのスタンスと技倆こそが、企業として求められつつあります。 

 障がい者の社会参画によるダイバーシティの実現は、SDGsにもかかげられているグローバルな社会課題です。後述するように、CORERALのビジネスモデルは、プロダクトを通じてSDGs 14「海の豊かさを守ろう」に貢献し、障がい者へのディーセント・ワーク提供によってSDGs 8「働きがいも経済成長も」を実現します。

 創業時にフレキシブルな動きが可能なスタートアップは、障がい者の主戦力化・労働力化を前提とした事業設計をおこなうことで、多くのベネフィットを獲得することができます。ベネフィットは単に名誉や評価に由来するリスク低減にとどまりません。コスト構造の改善と投資の呼び込みで成長も加速できます。そして、なによりも、利他の精神を原動力にして精力的に動く社員の掘り起こしにつながります。現実のビジネス強度につながるのです。

CORERALの取り組み

 CORERALは、埼玉県内に本社をおく障害者福祉支援サービス事業を運営する株式会社リズムと提携し、知的能力障害(知的発達症)の方々の労働の場として、人工ライブロックとサンゴの陸上養殖事業を推進することで合意しました。

 現在はスタートに向けた準備として、協業先の施設内で仮工程を設け、プレ製造と課題の洗い出しを進めています[3]。人工ライブロックと養殖サンゴの工程は、原則として施設利用者である障害の程度が重い方々がすべてを担うかたちをとるため、作業従事者が快適に作業できる環境を構築します。これにより、障がい者に新しい仕事―人工ライブロックとサンゴの陸上養殖―を手掛けてもらうことを可能とします。

人工ライブロックの製造は障がい者に相性がよい

 人工ライブロックは、炭酸カルシウム(セメント)を主材とする無機材料で擬岩を成形し、必要な作業をおこなったうえで、陸上設置プールの人工海水に浸漬することでできあがります。

天然ライブロックを乾燥させたもの(左)とセメント成形による擬岩(右)。成分の組成はほぼ同じで、結晶構造のみが異なります。

 

 自然の産物である天然ライブロックには同じ形状のものがありません。人工ライブロックも同様につくる必要があります。すなわち、人工ライブロックは、量産品で不可欠とされる最終製品形態が同じでなくてよい、むしろオリジナルである必要がある、という特徴があります。このような人工ライブロックの商品特性は、手先の作業にハンディキャップを持つ障がい者にとって相性がよいのです。組成と製法の管理さえ事前に設計しておけば、品質が担保されたうえで、形状については各自の個性を発揮してもらうことができます。

クリエイティビティが発揮される“アート”な仕事

 人工ライブロックの製造は、単に障がい者にとって相性が良いだけではありません。人工ライブロックの元となる擬岩の造形と石灰藻を再現するための着色作業は、ある種のクリエイティビティが発揮される“アート”な仕事です。このような仕事こそが、障害の程度が重い人たちに必要とされているのです。 

自由な形状でつくった擬岩には、石灰藻を再現した色彩を無機材料で再現します。

 

 人工ライブロックをアートと考えれば、製造に参加する人はアーティストであり、出来上がった製品は作品です。一般にアーティストは作品を自身一人で完成させます。人工ライブロックの製造工程も同様で、量産効率を上げるための作業分担ありきではなく、作業に参加する人の障害特性にあわせ、できるかぎり一人の障がい者が擬岩の造形から着色までを完成させる方式をとります。

 作品はすべて識別番号によって管理され、養殖工程後の出荷もすべてトレースされます。この仕組みによって、誰のどの作品がいくらで売れたかがわかります。その情報は作り手本人にフィードバックされます。自身が創出した社会への価値を、市場価格で見える化することが可能になります。

養殖サンゴで癒し効果も

 協業先施設内の製造工程には、人工海水による養殖水槽を設置し、人工ライブロックとサンゴの養殖をおこないます。養殖水槽は、作業に従事する障がい者にとって扱いやすいフールプルーフと、事故を抑制できるフェイルセーフの設計にもとづいて設置されます。

 この養殖水槽は、施設を利用するすべての人が見て心が癒されるような鑑賞性も兼ね備えたものにしたいと考えています。これにより、作業に従事する皆さんが楽しく、サンゴの成長を楽しみにするような作業環境が創出できます。

ダイバーシティ交流の場にもなる

 リーフアクアリウムは、水槽という狭い空間のなかで、生態系を再現する趣味です。協業先施設内に設置する陸上養殖水槽も、基本的な原理と機能はリーフアクアリウムと同じです。

 鑑賞だけでなく、実際に手を入れることができるタッチプール機能も備えれば、陸上養殖水槽は環境教育に最適なツールとなります。施設利用者だけでなく、小学生や中学生、地域住民の皆さんなど外部にも開放すれば、環境保護への取り組みと障がい者理解を促進することが期待できます。

 CORERALは、人工ライブロックとサンゴの陸上養殖事業を障がい者支援の枠組みで推進し、海と人のダイバーシティを実現します。

補注・参考文献

  1. 厚生労働省『令和3年版 障害者白書』(2021)
  2. 徳永智「事業戦略策定ツールとしての共通善階層構造モデルの提案」 『商大ビジネスレビュー』10巻1号、123-141頁(2020)
  3. 協業先との事業開始は2021年10月を予定しており、施設利用者が手掛けた製品の初出荷は2022年2月を予定している。

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