海水魚の取引規制は近いのか?

ビジネス, リーフアクアリウム, 環境保全

2019年に開催されたワシントン条約(CITES)締約国会議で、リーフアクアリウム向けの海水魚を対象に規制を検討することが決まりました。将来はサンゴに続き、海水魚の取引も規制対象になるでしょう。

※本稿は2022年1月4日に公開した記事に、その後の最新情報を追加してアップデートしたものです。(2023年6月18日)

CITESで海水魚の規制にむけた検討がスタート

 2019年にスイス・ジュネーブで開催されたワシントン条約(CITES)第18回締約国会議において、リーフアクアリウム向けの海水魚について、将来的な規制に向けた技術的な検討をおこなうことが決まりました[1]。開催国であるスイスによる提案で、欧州連合と米国が支援するかたちでワークショップが組織され、検討作業が進められることになっています。

 当初、CITESの動物委員会では、2022年に開催される第19回締約国会議において、検討結果を踏まえたうえで必要な勧告をおこなうものとしていました[2]。しかし、新型コロナウイルス感染症の影響や資金の手当が課題となり、議論に必要な調査が不十分であることから、二年後の2025年に開催される第20回締約国会議までに必要な調査をとりまとめ、勧告をおこなうことが決まっています[3][4]

 スイスと欧州連合、米国の3カ国が共同作成した提案書[5]では、サンゴ礁に棲息する熱帯性海水魚を対象に、これらの魚を採取することが生態系全体に与える影響の大きさが適切に評価されていないことから、リーフアクアリウムにおける海水魚の取引と飼育の実態を含めて調査をおこなうべきとしています。規制を念頭においたもので、業界団体からは公正で科学的知見にもとづいた対応を求める声が上がっています[6]

CITESが規制対象としたリーフアクアリウム向けの海水魚

 これまでCITESが規制対象品目に指定した海洋生物はそれほど多くありません。とりわけ、リーフアクアリウムで消費される水槽飼育が可能な小型の魚としては、乱獲によって減少したタツノオトシゴ(Hippocampus spp.)と固有種のクラリオンエンゼルフィッシュ(Holacanthus clarionensis)だけです。

2016年のCITESで規制の検討が提案されたプテラポゴン・カウデルニィー(Pterapogon kauderni)。

 2016年のCITES第17回締約国会議では、プテラポゴン・カウデルニィー(Pterapogon kauderni)について規制を検討することになりましたが、供給元であるインドネシア政府による捕獲割当と許可制の導入、養殖支援などの政策実施が評価され、附属書への掲載は見送られた経緯があります[7]

規制検討は絶滅危惧ではなくサスティナビリティの観点

 このように、これまでCITESでは、海洋生物についてあくまでも個別種の提案にもとづいて規制の可否を検討してきました。もともとCITESでの規制は、絶滅危惧種の保護を目的としているからです。ところが、今回の提案は、リーフアクアリウム向けに取引がされるすべての熱帯性海水魚を対象としており、これまでのスタンスとはあきらかに異なっています。

リーフアクアリウムでおなじみの海水魚は数百種に及ぶが、養殖が確立されているのはわずか約30種程度にすぎない。

 背景にはペット目的の水産生物取引の全面規制を主張する過激な環境保護団体のロビー活動があったされますが[8]、CITESで提案が可決されたのは、CITESと締約国の海洋生物に対するスタンスの変化を示しているともいえます。サンゴ礁に対する危機はすでに全世界で共有されているのでしょう。

海水魚の規制はどのように?いつ実施されるのか?

 仮に提案書が示す方向性通りに、多くの海水魚が規制対象品目となれば、リーフアクアリウムのあり方は根本的な変革を余儀なくされるでしょう。提案書で“輸送途中にたくさんの魚を死なせている”と批判されたサプライチェーンのみならず、愛好家にも大きな影響が及ぶことは間違いありません。

(出所:”INTERNATIONAL TRADE IN NON-CITES LISTED MARINE ORNAMENTAL FISH” UNEP-WCMC, CoP19 Inf. 99)

 第19回締約国会議に提出された世界自然保全モニタリングセンター(UNEP-WCMC)の報告書では、観賞用として流通する海水魚1708種のうち、およそ18%にあたる323種について、観賞用としての取引が種の絶滅に与えるリスクを「高」もしくは「中」と評価しています[9]。これらの種については、次回の第20回締約国会議以降に、規制対象とされる可能性が極めて高いと思われます。ただし、勧告がなされるのは2023年以降で、実際に規制対象として具体的な種目が附属書に掲載されるまでには、さらに複数回の締約国会議を経る必要があるでしょう。

 このように、CITESにおける海水魚の規制によってリーフアクアリウムの分野に直接的な影響が及ぶのは当面先のことになると思われます。しかし、このトレンドは不可逆的であり、サンゴと同じように海水魚も、リーフアクアリウムにおける位置づけと価値が大きく変わっていくことでしょう。

補注・参考文献

  1. Eighteenth meeting of the Conference of the Parties “Marine ornamental fishes“, CITES, 18.296(2019)
  2. Eighteenth meeting of the Conference of the Parties “Marine ornamental fishes“, CITES, 18.297(2019)
  3. Thirty-first meeting of the Animals Committee “ADDENDUM TO MARINE ORNAMENTAL FISHES“, CITES, AC31 Doc. 36(2021)
  4. Nineteenth meeting of the Conference of the Parties “INTERNATIONAL TRADE IN NON-CITES LISTED MARINE ORNAMENTAL FISH“. CITES, CoP19 Doc. 80 (2022)
  5. Eighteenth meeting of the Conference of the Parties “CONSERVATION MANAGEMENT OF AND TRADE IN MARINE ORNAMENTAL FISHES“, CITES, CoP18 Doc. 94(2019)
  6. OATA, OFI, PIJAC “INDUSTRY SEEKS LEADING ROLE AS CITES TARGETS MARINE ORNAMENTAL FISH TRADEL“, 2 Sep 2019, Ornamental Fish International
  7. CITES “BANGGAI CARDINALFISH (PTERAPOGON KAUDERNI)“, AC31 Doc. 31 (Rev. 1)(2021)
  8. CONSERVATION INFLUENCERS Franz Weber Foundation” 13 May 2021, Iwmc World Conservation Trust
  9. INTERNATIONAL TRADE IN NON-CITES LISTED MARINE ORNAMENTAL FISH” UNEP-WCMC, CoP19 Inf. 99 (2022)

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