モルディブのサンゴ礁

環境保全

 まだ幼かった我が子2人を連れてモルディブへ家族旅行をしたのは、だいぶ前のことになります。2010年と2014年の2回訪れました。

 滞在したのは、2回とも歩けば10分ほどで島を一周できるぐらいの小さめのアイランドリゾートです。モルディブのリゾートとしては庶民的なところですが、ヨーロッパからの長期滞在客が多く、落ち着いた雰囲気の島です。

 モルディブは5~10月が雨期です。私たち家族が訪れたのは2回とも夏ですが、ずっと雨が降り続くようなことはなく、1日に数回の雨、そのあとにカラっと晴れるの繰り返しは、むしろ南国の情緒を感じさせてくれる、素晴らしい日和と感じました。

 2014年の旅行時には、フランスからバカンスに来ていた親子と知り合いになり、2年後に彼らが日本に旅行へきたときには我が家にも訪問してもらいました。

 モルディブの多くのアイランドリゾートでは、シュノーケルをつけてビーチから泳ぎ出すと、すぐにたくさんの魚たちとサンゴを見ることができます。私たちが滞在した島では、北側と南側にビーチがあり、南側のビーチは、それこそ膝下くらいの水深でサンゴが繁殖していました。こちらのビーチでは、目の前を海ガメや小さなサメが泳ぐほどに、豊かなサンゴ礁が広がっていました。

 いっぽうの北側のビーチは、浅瀬ではサンゴ礫が広がり、魚やサンゴの姿もあまり見えませんが、ビーチから50メートルくらい泳いで水深が5メートルくらいのところまでくるとサンゴ礁が拡がります。そのすぐ先はドロップオフです。

 大きなテーブルサンゴは折れて自然岩のようになったものも多かった記憶があります。これは後述するように、1998年に起きたモルディブ史上最悪といわれるサンゴ礁被害の爪痕でした。ただ、小さな子ども連れにとってはサンゴがないビーチのほうが安心です。足を怪我しませんし、サンゴを傷付けることもありません。

 モルディブでは、1998年のエルニーニョ現象によって、サンゴ礁に史上最悪の白化が発生しました。エルニーニョのダメージに加えて、サンゴを食害するオニヒトデも発生し、平均被覆度(サンゴ礁で生きたサンゴが海底を占有する率)は40%から1.69%に減少したといいます。ほぼ全滅に近いダメージを受けたわけです。

 その後、モルディブのサンゴ礁は順調に快復を続け、私たちが訪れた2010年と2014年は、エルニーニョ現象による被害を受ける前のレベルにまで快復していたようです[1]

 島の北と南でサンゴの発育が違うのは海流の違いでしょう。南側のビーチは外洋に面しています。いっぽうで北側のビーチは隣の島との距離が近く、海は穏やかですが流れ込む海流が弱いのでしょう、浅瀬は水温が高めでした(子どもたちの海遊びには最適ですが)。サンゴはおよそ水温が30度を超えると生存が厳しくなります。北側のビーチ浅瀬がサンゴ礫で覆われていたのは、水温のためと思われます。実際にサンゴが繁殖している外縁までくると、1-2度、体感水温が低く感じたことをおぼえています。

 滞在した島のスタッフや長年のリピーター客によれば、昔は北側も島のビーチからすぐのところまで生きたサンゴがぎっしりと繁殖していたそうで、快復にはまだまだという口ぶりでした。人々の記憶と調査上の数値には、場所によって開きがあります。

 その後、2014~2016年には、世界的な高水温で、おおくのサンゴ礁で被害が出ました。モルディブも同様で、2014年と比較して平均被覆度は約10ポイント程度悪化したようです。現在は、サンゴ礁の快復に様々な取り組みがなされています。リゾートの滞在客が養殖サンゴを移植してサンゴ礁の保全に携わるエコツーリズムなどです[2]

 私たちがモルディブを訪れて以降、モルディブでは政情不安が起きるとともに、二年前からの新型コロナウイルスの蔓延で、観光に依存する同国経済は大きな影響を被っています。しかし、2021年からは観光客の受け入れも再開し、客足が戻りつつあるようです。リッツ・カールトンとマリオット(ル メリディアン)が相次いでリゾート施設をオープンさせるなど、明るいニュースもあります。

 これからも多くの人がモルディブのサンゴ礁を楽しめるように願っています。

補注・参考文献

  1. C. Pisapia, D. Burn, R. Yoosuf, A. Najeeb, K. D. Anderson & M. S. Pratchett “Coral recovery in the central Maldives archipelago since the last major mass-bleaching in 1998” Scientific Reports, vol6 No.34720(2016)
  2. The Baros Coral Sponsorship Initiative” The Baros Travel Guide,9 June 2021

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