渦鞭毛藻類(ダイノス)対策と珪藻の役割

リーフアクアリウム, 生態系

リーフアクアリウムにおけるハードコーラルの育成で、近年、問題視されているのが渦鞭毛藻類(ダイノス)の急速な増殖です。これには同じ植物プランクトンとして競合する珪藻の衰退が関係しています。

 リーフアクアリウムにおけるハードコーラルの育成で、近年、問題視されているのが渦鞭毛藻類(Dinophyceae、ダイノス)の急速な増殖です[1]。ミドリイシなどのハードコーラルが成長し、水質も安定した水槽環境において渦鞭毛藻類が増殖を始めると、どう手を尽くしても抑制ができず、最終的に水槽のリセットを余儀なくされることがあるようです。なぜでしょうか?これは、ハードコーラルが成長できるサンゴ水槽の環境が渦鞭毛藻類にとって快適な環境であることと、同じ植物プランクトンとして競合する珪藻(Bacillariophyceae)の衰退が関係しています。

 この写真は、水槽を新しくセットした直後に底砂で繁殖した珪藻を撮影したものです。リーフアクアリウムでは、珪藻はガラス面や底砂などに付着する茶ゴケとして知られています。

 珪藻は自然界で光合成による酸素供給の大部を占めるほか、食物連鎖の重要な基礎を担っています[2]。しかし、リーフアクアリウムでは鑑賞上の妨げになることから、できるだけ増殖しないようにコントロールするべき対象とされています。

 水槽に繁殖した珪藻を顕微鏡で撮影したものです。透き通った細長い形状のものが羽状類珪藻です。無数に密集している様子がわかります。珪藻はガラス質の殻を生成するためにケイ酸をつかいますが、サンゴや海藻(草)は窒素とリンを代謝につかいケイ酸はつかいません。海の生物でケイ酸を消費する生物は珪藻と海綿だけです。そこでリーフアクアリウムでは、人工海水をつくるときに逆浸透膜浄水器などでケイ酸を除去することが推奨されてきました。

 珪藻はケイ酸を吸収して殻をつくりますが、サンゴ水槽はリンとケイ酸の濃度を抑えるので珪藻が増殖するには厳しい環境です。珪藻の増殖が制限されると、少量であっても余剰の窒素とリンをつかって渦鞭毛藻類が増えます[3]。また、サンゴ水槽で一般的な青白の波長の光は渦鞭毛藻類の増殖を促進するとも考えられています[4]。実はサンゴの褐虫藻も渦鞭毛藻類の一種です。そう、セオリー通りにコントロールされたサンゴ水槽は、渦鞭毛藻類にとって快適で増殖容易な環境なわけです。

 渦鞭毛藻類が増殖した水槽に動物プランクトンを投入するのは効果が期待できますが、カイアシ類は珪藻を好む種が多く、毒を持つ渦鞭毛藻類を選択的に忌避したとする研究結果もあります[5]。実は渦鞭毛藻類は猛毒を生成する種が多いのです[6]。植物プランクトンとして有毒渦鞭毛藻類を摂取することで生体濃縮される貝毒にとどまらず、魚やヨコエビなどに致死性の毒を有する種が存在することもわかっています。コケ対策としてエビ、カニなどを導入しても効果が見えず、死骸が増えただけという経験はありませんか?もしかしたら、それは有毒渦鞭毛藻類の増殖だったのかもしれません。

 微生物が豊富な天然海水の導入も効果が期待できます。渦鞭毛藻類の増殖を抑制する細菌が含まれる可能性があるからです。ただし、渦鞭毛藻類には休眠耐久卵(シスト)を形成する種もいますから、そのような種が増殖した場合には、いったんは終息したように見えても、再発生を繰り返す恐れがあります。水槽をリセットする以外に選択肢がない、という状況に追い込まれます。

渦鞭毛藻の一種Polykrikos kofoidii。左から遊泳細胞(A)、原形質を保持している生シスト(B)、発芽後の空シスト(C)(写真出典=国立科学博物館

 考えうる快復手段として、ケイ酸の溶存量を上げて、渦鞭毛藻類の競合である珪藻の増殖を促すことが考えられます。珪藻は渦鞭毛藻類を抑制する物質を分泌し、渦鞭毛藻類よりも増殖が早い特徴を持つからです[7]。同時にヨコエビなどの動物プランクトンやコケを食べる生き物たちを投入して水槽内の食物連鎖を構築します。天然海水の導入もよいでしょう。

 水槽にケイ酸を補充するには塩素を抜いた水道水を添加します[8]。海水のケイ酸の平均濃度は2mg/Lと言われています。これに対して水道水(ダム貯水)に含まれるケイ酸は地域と水源によって異なるものの、おおむね約10倍の20mg/L程度の濃度です。水槽と水道水の両方の水に含まれるケイ酸の濃度を試薬で測定したうえで、現在の水槽の溶存量に追加すべき量を決め、2ppmを上限に0.1ppm/日のペースで上げてみてください。

補注・参考文献

  1. リーフアクアリウムで問題となる種は、底生性または付着性の有毒渦鞭毛藻と考えられますが、本稿では様々な渦鞭毛藻類で確認されている種々の生態を参考にした記述とします。
  2. 自然の海では、代謝にケイ酸を必要とする植物プランクトンが大気中の酸素の約25%を生みだし、二酸化炭素固定の約20%に寄与しています。
  3. ケイ酸の欠乏による珪藻の衰退を海洋生態学ではシリカ欠損と呼びます。渦鞭毛藻の急速な増殖による赤潮の原因でもあります(参考:原島省「海洋生態系におけるケイ藻とシリカの役割」『環境バイオテクノロジー学会誌』Vol.8・No.1、9–16頁(2008)。
  4. 今井一郎、山口峰生、松岡數充編『有害有毒プランクトンの科学』恒星社厚生閣(2016)。
  5. 山田雄一郎「沿岸性カイアシ類の有毒渦鞭毛藻に対する摂餌選択性の解明」科学研究費成果報告書(2011)。
  6. I.NAKAJIMA、Y.OSHIMA、T.YASUMOTO “Toxicity of Benthic Dinoflagellates in Okinawa” NIPPON SUISAN GAKKAISHI、Vol.47・Issue.8、1029-1033頁(1981)。
  7. 松原賢、長副聡、山崎康裕ほか「渦鞭毛藻 Akashiwo sanguinea に対する中心目珪藻類による増殖抑制作用」『日本水産学会誌』74巻・4号、598-606頁(2008)。
  8. セラミックス製の濾材などの主原料はケイ素(シリカ)ですが、鉱物性のシリカは不溶性のため、水槽内へのケイ酸の補充には寄与しません。水道水をつかうのがよいでしょう。

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