ライブロックの寿命とは?

ライブロック, リーフアクアリウム

ライブロックは無機物の岩石です。形質上の「寿命」はありませんが、水槽内で多様な生物相の維持を目指すための「機能」に着目すると、留意すべき点があります。

 ライブロックは、炭酸カルシウムを主成分とする岩石です。ハードコーラル(造礁性サンゴ)や石灰藻、有孔虫といったカルシウムを体内で形成する生き物が死んだ後に残す骨格がもとになっています。岩石ですから変質や風化はありますが、生き物のような「寿命」はありません。しかし、リーフアクアリウムにおける役割という点で見ると、当初の期待された機能を果たせなくなることはあります。

 ライブロックがリーフアクアリウムで果たすことが期待される機能は次の4点です。

①水槽内でサンゴ礁の海底を視覚的に再現するための装飾物であること。
②徐々に溶け出すことで水槽の飼育水にカルシウムを供給し水質をアルカリ性に保つ。
③細孔内に棲み着いた微生物が水質浄化を担う。
④微生物や付着生物類が生物相の多様化に寄与する。

 ①と②と③の機能は、サンゴ岩やカルシウムベースの擬岩でも機能を発揮させることは可能です。しかし、④の“多様な生物の住処”であることはライブロックならではの機能です。“Live Rock”と命名されたゆえんですね。

 ライブロックは、その構造上、無数の細孔が存在し、そこには水質浄化に寄与する微生物(細菌、古細菌)が棲息します。そして複雑な形状の表面には大小様々な付着生物(藻類や海綿、ゴカイなど)の住処となっています。ときには、飼育者が意図しない(望む・望まない)生物の繁殖もありますが、この多様性こそがライブロックの機能的価値であるとも言えます。

 ところが、自然の海と異なり、閉鎖環境の水槽は生物にとって過酷な環境です。水槽の条件に合致した生物のみが生き残り、その他の生物は消えていきます。

 この生物相の変化をライブロックに着目してみたとき、視覚的にわかりやすいのは石灰藻でしょう。赤や紫といったカラフルな色彩の石灰藻は、ミドリイシなどの造礁性サンゴ(アクアリウムでハードコーラルと呼ばれる種)を健康的に飼育するためのバロメータとされています。これは、石灰藻がサンゴと似た生育環境を必要としていることによります。

 リーフアクアリウムにおいてハードコーラルを中心とした水槽では、栄養塩の濃度がホビー試薬では検出限界に近いほど低く保たれることが目指されます。これは、栄養塩がサンゴや石灰藻のカルシウム合成を阻害するためです。石灰藻が増殖する水質はハードコーラルも骨格形成がしやすいからです。

 そして栄養塩が少ないことは、競合するコケ(藻類)の増殖もできるだけ抑えることにつながります。石灰藻の生態については未だに不明なところが多いですが、サンゴやゴカイなどの動物とは共生しても、同じ光合成植物である海藻類とは競合するようです。

 水槽に入れたライブロックが白くなっていくのは、石灰藻が徐々に衰退してライブロックの地肌が見えるようになるからです。このとき、水槽内の水質は栄養塩が多く、コケ(藻類)も増殖していることが多いはずです。藻類の成長は、植物性プランクトンに依存する微少な動物性プランクトンの増殖に寄与しますが、得てして水槽内では彼らを補食する生体(魚)が過密飼育されているので、藻類の成長速度が勝ります。コケは石灰藻が衰退した後のライブロック表面を覆い、サンゴとも競合します。

 ライブロックの表面から徐々に石灰藻が消えて白くなったからといって、ライブロックに棲息する微生物が減っているわけではありません。ただし、閉鎖的で過酷な水槽環境は、定期的な補充がなければ、微生物の多様性は失われていきます。

 微生物の代謝は様々で、水浄化のプロセスは複雑に関連しあっています。微生物は元素レベルの物質で代謝をおこないますが、代謝につかう物質は微生物の種によって異なるため、徐々に特定の物質の過不足と特定種の占有を招きます。閉鎖的かつ小さな水槽環境では、この負のスパイラルを完全に回避することはできません。リーフアクアリウムの宿命ともいえるでしょう。

 リーフアクアリウムにおいて定期的な換水は、このような負のスパイラルを出来る限り遅延させる役割を果たします。もっとも効果的な(しかし飼育管理上のリスクもある)手段は、自然の海から採取した海水を定期的に水槽へ導入することです。バランスがとれたイオン構成と多様で豊富な微生物を水槽に補充することで、ライブロックが本来果たす機能をサポートすることができます。

 なお、ライブロックが変質によって継続使用できなくなることはあります。水槽内の局所的な酸素不足でライブロックに嫌気的な環境が生じると、微生物(硫酸還元細菌)の作用によって硫化水素が生じます。この写真に示す黒ずみのように、そのような状態になったライブロックには還元作用による硫化物が固着して残ります。

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