死サンゴが長年にわたり海底で徐々に岩石化したライブロックは、多孔質で細孔には多くの生物が棲息しています。彼らは水中の有機物を摂取して代謝によって水を浄化します。
海中のライブロックは多くの生物が棲息する
ライブロックは死滅したサンゴ(造礁サンゴ)が長い年月を経て風化した自然岩です。サンゴの骨格はカルシウムでできており、もともと隙間があるうえに、死んだあとは他の生物の住処になるなどして多くの穴が空けられます。そのため、ライブロックの岩塊は概して多孔質で透水性に優れています。
この多孔質という特徴から、海底に沈んでいるライブロックには多くの生物が棲息しており、彼らの生理作用によって水が浄化される機能があります。多様な生物の住処であるライブロックは、水槽内の水質維持に重要な役割を果たすことから、リーフアクアリウムでは必要不可欠の素材として位置づけています。
ライブロックによる水浄化作用は生き物たちの活動
ライブロックによる水質浄化は、ライブロックに棲息した様々な生物が水のなかに漂う有機物を取り込んで生物分解することによってなされます。有機物は、元素化合物のミクロレベルから小さなゴミまで多様で、それに応じて有機物を処理する生物も多様です。
生物にとって有害なアンモニアやサンゴの骨格形成を阻害するリンなどの元素化合物を処理するのは、バクテリア(細菌)とアーキア(古細菌)などの微生物です。また、海藻やサンゴも元素を取り込みます。動物プランクトンやゴカイ類、巻き貝、二枚貝、カイメンなどは、目に見えるレベルの固形有機物を捕食して処理します。
彼らの排泄物は汚泥としてライブロックに排出されます。仮にライブロックだけしかいれていない水槽で底にゴミが溜まるならば、それはライブロックが生物の住処である証拠です。
この排泄物には無数の微生物が棲息しており、元素化合物を取り込みます。リーフアクアリウムでは、このような生物サイクルが小さな水槽のなかで無数に展開されています。
微生物による生物濾過の仕組み
海水に含まれる微生物の数は、1ミリリットルあたり10万~100万ともいわれます。水に関係するすべての微生物が明らかになっているわけではありませんが、上水道を中心とした水環境分野における研究成果もあり、水浄化の仕組みはおおむね明らかになっています。
微生物が水を浄化する基本的な仕組みは淡水と海水でかわりはありません。
有機物の分解は、微生物が酸素をつかい、生物に有害なアンモニアを亜硝酸に、さらに比較的無害な硝酸にかえます(硝化)。ついで、亜硝酸や硝酸を今度は別の微生物が分解して窒素ガスに還元して放出します(脱窒)。この硝化と脱窒のサイクルがうまく機能することで、水をきれいな状態に維持することができます。
硝化は主に通水性がよいライブロック表面やフィルター濾材でおこなわれます。脱窒は通水性が低いライブロックの内部や底砂でおこなわれます。
生物濾過を担うバクテリアとアーキア
水浄化に寄与する微生物は、バクテリア(細菌)とアーキア(古細菌)です。従来は、硝化が好気性バクテリア、脱窒が嫌気性バクテリアの活動と区別されてきましたが、微生物は好気と嫌気でそれぞれの環境に応じた代謝をおこなっていること、また、水槽などの閉鎖環境ではバクテリアよりもアーキアが繁殖しやすく、水浄化のプロセスもアーキアが主に担っている可能性などがあきらかになっています[1]。
リーフアクアリウムでは総じて水槽に収容する生物量が自然界に比べて過密なため、蓄積される有機物の量に対して生物分解が追いつきません。十分な微生物が棲息し、水質浄化機能を有したとしてもライブロックだけで水質を維持することは困難です。そこでリーフアクアリウムでは、微生物による生物分解の前に有機物を物理的に除去するプロテインスキマーなどの器具が設置されます。プロテインスキマーは、内蔵したポンプで水流を発生させ、そこに空気の泡沫を加えることで有機物を浮上させて除去します。
補注・参考文献
- バクテリア(細菌)とアーキア(古細菌)は外観上は区別がつきにくく、主に遺伝子の解読で区別されます。従来、水の浄化を担うのは淡水も海水もバクテリアとされてきましたが、水族館における硝化過程を調査した研究では、淡水・海水どちらも平均値でアーキアがバクテリアを量的に上回る結果が示されています(Samik Bagchi, et al.”Temporal and spatial stability of ammonia-oxidizing archaea and bacteria in aquarium biofilters“, PLoS One, 2014 Dec 5;9(12):e113515. doi: 10.1371/journal.pone.0113515. eCollection(2014))。