天然ライブロック採取は環境へどう影響するか?

ライブロック, 環境保全

 広い海にとって、リーフアクアリウムでつかう天然ライブロックの採取はどのような影響があるのでしょうか? 国際的な取引規制の経緯から考えてみましょう。

※本稿は2021年10月13日に公開した記事に、その後の最新情報を追加してアップデートしたものです。(2023年7月2日)

日本国内では天然採取のライブロックが主流

 国内のリーフアクアリウムで消費されるライブロックは、これまで多くを天然採取に依存してきました。国内では沖縄県が条例(漁業調整規則)により採取を禁止しており、擬岩による養殖ライブロック商品化の先駆けとなった経緯があります[1]。しかし、沖縄県産の養殖ライブロックは、国内流通の大半を占めるにはいたらず、現在は規制がない他県で採取された天然ライブロックが多く流通しているのが実情です。

海外では天然採取は激減し擬岩に移行

 海外産のライブロックは、グローバルマーケットの9割以上を占めていたフィジーとインドネシアが輸出規制を強化することで大幅に供給量が減りました。グラフに示したのは、2013年~2021年までに間にグローバルマーケットに輸出されたライブロックの原産国割合の推移です。

近年の天然ライブロックグローバル出荷量の推移と原産国割合。CITES Trade Database 2023より、ライブロックとして分類されるイシサンゴ目不特定種(Scleractinia spp.)で死サンゴ(Raw Coral)としてkg単位の輸出がされている取引を対象に原産国割合の変化をグラフ化した。第三国経由分を除く。輸出国の数値がない場合は輸入国の数値による。

 2013年にグローバルマーケットで4000トン以上が取引されていた天然ライブロックは、毎年ほぼ半減するほど急激に減り続け、新型コロナウイルスが蔓延した2019年には約136トンにまで減少、コロナ後の現在も最盛期の約10分の1程度となっています。

 グローバルマーケットでは、天然ライブロックの供給は大幅に減り、欧米のマーケットでは、リーフアクアリウムにつかうライブロックは擬岩にシフトしています。

 このようにグローバルな規模でみると、ライブロックは天然採取から擬岩または養殖へのシフトがおおきな流れとなっています。これは世界的な海洋環境保護に向けた動きを反映したものですが、広い海にとって、リーフアクアリウムでつかう天然ライブロックの採取はどのような影響があるのでしょうか?

広い海からの採取量は微々たるものだが…

 最初に地球上に存在するライブロックの量について考えてみましょう。全世界のサンゴ礁の面積は60万平方キロメートルです。ライブロックの平均比重で1キログラムあたりの占有面積を225平方センチとすると、サンゴ礁の表層に存在するライブロックはおよそ267億トンとなります。

 これは、近年でもっとも多かった2013年のグローバル輸出量4000トンでも、およそ0.15パーセント相当にすぎません。多くのサンゴが死滅して毎年あらたにライブロックが供給されていると考えれば、リーフアクアリウム向けでライブロックを採取しても枯渇の心配はなさそうです。

ライブロック採取による海底の変化がサンゴの育成に直接的な影響を与える

 ただ、ライブロックは基本的に採取がしやすい沿岸部でなされます。沿岸部で集中的に採取がおこなわれることでサンゴ礁に地形の変化が生じ、生態系に影響を及ぼすことが明らかになっています。

フィジーにおけるライブロック採取の様子。現在は天然ライブロックの採取と輸出は禁止されています。(出所:WWF2001)

 世界自然保護基金(WWF)が2001年にフィジーを対象にまとめたレポートでは、ライブロックの採取による地形の変化でサンゴがそれまでもよりも強い波を受けるようになり、生育に影響が出ることが指摘されています[2]。また、ライブロックを建築資材として使用してきたモルディブでは、実際にサンゴ礁の魚が著しく減少したうえ、高波の被害を大きくしたとも指摘されています[3]

ワシントン条約における議論

 ライブロックがサンゴ礁に与える影響については、ワシントン条約(CITES)でも議論がされてきました。2000年にケニアのナイロビで開催された第11回締約国会議において、ライブロックの採取はサンゴ礁の保全に必要であるという認識が示され、その理由として具体的に次の点が挙げられています[4]

  1. ライブロックは新しいサンゴが付着するための表面を提供するものであり、サンゴ礁の生態系の存続に欠かせないものであること。
  2. ライブロックは自然に剥離した瓦礫として採取されることもあるが、バールやハンマーなどで物理的にサンゴ礁から取り除かれることもあり、その場合はサンゴ礁に直接影響を与える。
  3. ライブロックを除去することで、サンゴやサンゴ礁の生態系を支える魚、その他の動物の重要な生息地が失われる。
  4. ライブロックを規制対象から除外すると、CITESで管理されている規制対象のサンゴが国境を越えて密輸される抜け道になる。

 ライブロックを規制対象にするための検討は、およそ5回の締約国会議と10年の歳月を経て、2010年に結論が出されました。ライブロックは、CITES附属書Ⅱに掲載されているイシサンゴ目(Scleractinia)に含めるという定義を決め、規制対象品目となったのです[4]

 本来、CITESは絶滅危惧のある動植物の保護を目的としています。CITESがライブロックを規制することを決めたのは、ライブロックの枯渇ではなく、ライブロックの採取がサンゴ礁の生態系に与える影響が無視できなかったからです。これは、最大の供給国だったフィジーとインドネシアによる大幅減産のきっかけとなり、今日のグローバルマーケットから海外産天然ライブロックが途絶える道筋となりました。

補注・参考文献

  1. 擬岩ベースの養殖ライブロックは、沖縄県石垣島で1996年に創業したC.P.ファームが先駆けとおもわれる。現在、同島では八重山漁業協同組合も養殖ライブロック生産をおこなっている。
  2. Edward R. Lovell “STATUS REPORT: Collection of coral and other benthic reef organisms for the marine aquarium and curio trade in Fiji” WWF South Pacific Program Office, Oceania Printers, Suva Fiji Islands(2001)
  3. Barbara E. Brown, Richard P. Dunne “The Environmental Impact of Coral Mining on Coral Reefs in the Maldives” Environmental Conservation, Cambridge University Press, Vol15-2, pp.159-165(2009)
  4. CITES “IDENTIFICATION AND REPORTING REQUIREMENTS FOR TRADE IN SPECIMENS OF HARD CORAL“, Doc. 11.37(2000)
  5. CITES附属書Ⅱには1985年にイシサンゴ目(Scleractinia)が掲載されており、2010年に決議された定義でライブロックを規制対象外の化石とは異なる“Coral Rock”としたうえで、イシサンゴ目未特定種(Scleractinia app.)に含むものとした。同定義は2014年6月より施行され、これによりライブロックはCITESの規制対象品目となっている。

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