バクテリアとアーキア

リーフアクアリウム, 生態系

水浄化で硝化と脱窒を担うのはバクテリア(細菌)だけではありません。アーキア(古細菌)も担います。むしろアーキアのほうが多いかもしれません。

生物のドメイン:細菌、古細菌、真核生物

 生命の起源は、いまだ確定していません。地球が誕生したあとに無機物が化学反応を起こして有機物を生成し、それが原始生命体を生んだのか、または宇宙からの隕石や彗星などで運ばれてきたのか。両者の相互作用とも考えられます。ただし、原始生命体が生まれた場所についての科学者の見解はほぼ一致しています。海です。生命現象は、水が必要な化学反応の組み合わせであること、海水の成分と細胞の成分が類似しているからです[1]

 地球上の生物は、バクテリア(細菌)とアーキア(古細菌)、真核生物の3つに分類されています(ドメインという)。バクテリアとアーキアは原核生物で、真核生物は私たち人間を含む動物と植物です。ただし、最新の研究では、アーキアはバクテリアを取り込んで真核生物に進化したとも考えられており[2]、今後、人類の起源と進化についての定説は覆される可能性があります。

バクテリアとアーキア

 38億年前に、原始生命体からバクテリアとアーキアが分離しました。両者ともに、物質を代謝し、自己を複製して増殖する特徴をもっていますが、培養の技術が確立され、菌種によっては大量生産がされているバクテリアに対し、アーキアについては未だ多くが謎のままです。バクテリアが人間の目につきやすい、利用しやすい存在だったからかもしれません。バクテリアとアーキアは細胞の形や大きさがほぼ同じなために区別がつきにくく、両者の区別は主として遺伝子の解読によっておこなわれています。

 

 アーキアは、海底火山の噴出口などの高温や強濃度といった極限環境に棲息するイメージがありますが、実際はかなり広汎に存在していることがわかっています。海洋では微生物の約2割を占め[3]、海底の地下堆積物に存在する微生物の大半はアーキアだという報告もあります[4]

水槽内はアーキアが主勢?

 そして、これまで水浄化のプロセスはバクテリアが硝化と脱窒(還元)を担ってきたと理解されていましたが、近年の研究では、むしろアーキアのほうが主たる存在である可能性も指摘されるようになりました。

 カナダの研究グループが水族館の生分解フィルターから微生物を採取し、遺伝子の解読でバクテリアとアーキアの存在量を調査しました。すると、サンプルに占めるアーキアの割合は淡水が95%、海水では60%にのぼり、どちらもアーキアがバクテリアを上回っていたのです[5]

 淡水と海水で水浄化にかかわるバクテリアとアーキアの比率が異なる理由はあきらかではありません。また、サンプルによるバクテリアとアーキアの比率の差異もその理由はわかりません。今後、アーキアの研究が進み、代謝の仕組みが解明されれば、水浄化のサイクルをあきらかにすることができるでしょう。

補注・参考文献

  1. 小幡斉、加藤順子『微生物の不思議な力』関西大学出版部(2009)
  2. 深川峻太郎、ブルーバックス編集部「27億年前の「ご先祖様」が体内にバクテリアを取り込むまで われわれ真核生物の祖先はアーキアだった!?」国立研究開発法人産業技術総合研究所(2020))
  3. E.F.DeLong, N.R.Pace “Environmental diversity of bacteria and archaea” Syst Biol,50(4):470-8(2001)
  4. Lipp, J. S., et al. “Significant contribution of Archaea to extant biomass in marine subsurface sediments”. Nature 454 (7207): 991. doi:10.1038/nature07174. PMID 18641632.(2008)
  5. Samik Bagchi, et al.”Temporal and spatial stability of ammonia-oxidizing archaea and bacteria in aquarium biofilters“, PLoS One, 2014 Dec 5;9(12):e113515. doi: 10.1371/journal.pone.0113515. eCollection(2014)

関連記事一覧