CITES データでみるサンゴの国際間取引
CITESはワシントン条約にもとづく保護対象品目の国際間取引について各国からの情報をもとにデータベースを作成して公開しています。今回は詳細版のCITES Trade Databaseで、インドネシアから日本への養殖サンゴ事情についてみてみましょう。
データベースで検索可能な規制対象サンゴ種
サンゴ(造礁サンゴ)は、ワシントン条約(CITES)による保護対象品目となっており、輸出国または輸入国の申告にもとづいて国際間取引がデータベース化されています。リーフアクアリウムで消費対象となるサンゴのうち、ハードコーラルとして分類される種とライブロックの輸出入情報がCITESのデータデースで検索可能です。
CITESで規制対象となっているサンゴは、学術上の分類は花虫綱(Anthozoa)とヒドロ虫網(Hydrozoa)に属する種になります。装飾加工目的で取引される宝石サンゴと総称される種も対象にはいります。一方で、リーフアクアリウムで人気があるソフトコーラルやイソギンチャクなどは、CITESの保護対象品目ではないために検索はできません[1]。
CITESにはサイト上で国際間取引の全体像をみることができる「CITES Trade Data Dashboards」と、個別の取引情報を検索できる「CITES Trade Database」のふたつのサービスを無料で公開しています[2]。どちらもデータソースは同じで、後者ではデータをファイルでダウンロードすることが可能です。今回は、詳細版のCITES Trade Databaseをつかい、個別取引情報の検索方法とデータの見方についてご紹介します。
CITES Trade Databaseで輸出入情報が確認できるサンゴは以下の通りです[3]。
- ツノサンゴ目(Antipatharia)
- アオサンゴ目(Helioporacea)
- アナサンゴモドキ目(Milleporina)
- イシサンゴ目(Scleractinia)
- ウミヅタ目(Stolonifera)
- サンゴモドキ目(Stylasterina)
- ヤギ目(Gorgonacea)
CITESでは、これらの保護対象品目について、可能なかぎり、目・科・属・種名まで特定することとしており、データベースでは取引ごとに生体の原産国や出所などを記録しています。このため、データベースを見ることで、どのような品種の生体がどのくらいの量で取引されているのか、また養殖個体なのか天然採取個体なのかがわかるようになっています。以下では、本邦に輸入されるインドネシア産の養殖サンゴを例に、CITES Trade Database からデータを抽出していきましょう。
取引年を選択する
左側の選択メニューの一番上にある「Year Range:」を選択し、データ抽出の年度を設定します。今回は少し前になりますが、2019年の1年間の取引を抽出してみましょう。「From:」と「To:」でそれぞれ“2019”と選択します。選択すると、右側の「Search Selection:」に“From : 2019 To : 2019”と反映されます。
輸出国と輸入国を選択する
次に、国際間取引の輸出国と輸入国を選択します。今回は日本に輸入されたインドネシアの養殖サンゴを調べますから、左側の選択メニューの2段目にある「Exporting countries:」は“Indonesia”、3段目にある「Importing countries:」は“Japan”を選択します。右側に“Indonesia”と“Japan”が反映されます。
商品の出所を選択する
次に、左側の選択メニュー4段目にある「Source:」です。取引された品がどのような出所や経緯で採取されたかを示します。野生からの採取なのか繁殖させたものなのか、繁殖ならば人工繁殖なのか自然繁殖なのか、税関等での没収または押収、国際海域での採取なのかといった項目です。リーフアクアリウムにおける商業取引で関係するのは「C – Captive-bred animals」=人工繁殖、「F – Born in captivity (F1 and subsequent)」=自然繁殖、「W – Wild」=野生採取(天然)です。今回は養殖サンゴに該当する“C”と“F”を選択します。
取引の形態を選択する
「 Purpose:」は、取引の形態と理由を示します。選択肢は、繁殖(B)、教育(E)、植物園(G)、狩猟(H)、法執行(L)、医薬品開発(M)、自然保護活動(N)、個人(P)、サーカスまたは展示(Q)、調査研究(S)、商取引(T)、動物園(Z)です。今回はリーフアクアリウムで販売される養殖サンゴが目的ですので、商取引の“T”を選択します。
商品の状態を選択する
「Trade Terms:」は、取引される品の状態を示します。動植物品のそれぞれの部位や処理方法などで100項目ほどに細分化されていますが、リーフアクアリウムでサンゴに関係する項目は、主として「COR:Raw corals」=未加工サンゴ、「LIV:Live」=生体、「COS:Coral sand」=サンゴ砂の3項目です。今回は生きた状態で輸入販売される養殖サンゴなので生体を意味する“LIV”を選択します。
生物の分類を指定する
データベースには、CITESが保護対象とする様々な動植物がすべて網羅されていますので、かなりのデータ量になります。「Search by taxon:」は、生物の分類群を指定することで、該当する生物の取引情報のみを抽出することができます。ただし、分類群の指定は1つだけで、複数を指定することはできません。今回は養殖サンゴでもっともオーソドックスなイシサンゴ目(Scleractinia)を指定します。
これですべての項目の設定が完了しました。右側の「Search」をクリックして、データを抽出しましょう。仮に該当するデータがない場合は、エラーメッセージが表示されますので、選択項目を変更してください。直近の年度は加盟国からの情報提供が間に合っていないなどで、データが少ないようです。
「Search」をクリックして該当するデータがあると、データの抽出がおこなわれ、「REPORTS」画面に遷移します。
データの出力方法と形式を指定する
ここではデータの出力方法と形式を選択できます。「Select output type:」では、データの出力方法として、ホームページ上で表示できる「web」とデータをテキストファイルでダウンロードできる「csv」が選択できます。表計算ソフトなどで集計作業をするときには「csv」を選択します。データ量が多い場合には、ホームページ上で表示できずに「csv」のみが選択可能になります。今回はデータ量がそれほど多くなく、ホームページ上で表示できますので“web”を選択します。
「Select report type:」では、データの出力形式を選択できます。「Comparative Tabulations」を取引毎に詳細を確認できるデータです。「Gross/Net Trade Tabulations」は合計(Gross)と正味(Net)で取引量を表示することができますが、集計した値で品目も種名のみになるため、取引毎の詳細は表示できません。今回は“Comparative Tabulations”を選択して、取引毎の詳細データを確認してみましょう。
データ出力画面の見方
データの出力が完了すると、このようなリスト形式で取引毎の詳細が表示されます。左から取引年(Year)、付属議定書への掲載区分(App.)、分類(Taxon)、綱(Class)、目(Order)、科(Family)、属(Genus)、輸入国(Importer)、輸出国(Exporter)、原産国(Origin)、輸入国側からの報告数量(Importer reported quantity)、輸出国側からの報告数量(Exporter reported quantity)、商品の状態(Term)、数量の単位(Unit)、取引の形態(Purpose)、商品の出所(Source)になります。
商業取引の場合の分類(Taxon)はインボイスに記載された名称になるようです。サンゴは種の特定ができないことが多く、不明または未特定を意味する“.spp”との記載も少なくありません。原産国(Origin)に表記がある場合は、第三国を経由して輸出入がされたことを意味します。表記がない場合は輸出国(Exporter)を産地と考えてよいでしょう。
数量(Importer reported quantity / Exporter reported quantity)は、輸出国側と輸入国側で差異が生じることが稀にあります。サンゴは原則として個体数でカウントします。数量の単位(Unit)が空欄であれば数量に記された数字は個体数を意味します(ライブロックなどはkg表記となります)。 商品の状態(Term)、 取引の形態(Purpose)、商品の出所(Source)はデータ抽出時に設定した内容とかわりありません。
インドネシアから日本への養殖サンゴ輸入実績
表示されたデータから、2019年にインドネシアから日本へどのような養殖サンゴがどれくらいの数で出荷されたかを見てみましょう。名称はリーフアクアリウムの分野での通称になります。
- ミドリイシ(Acropora spp.):610個体
- コモンサンゴ(Montipora spp.):150個体
- ホソナガレハナサンゴ (Euphyllia ancora) :210個体
- ハナサンゴ(Euphyllia glabrescens):100個体
- タコアシサンゴ(Euphyllia yaeyamaensis):20個体
- ミズタマサンゴ(Plerogyra sinuosa):20個体
- イボスリバチサンゴ(Turbinaria spp.):20個体
- タバネサンゴ(Caulastraea spp.):15個体
- フカトゲキクメイシ(Cyphastrea spp.):5個体
- キクメイシ(Favites spp.):10個体
- イボサンゴ(Hydnophora spp.):10個体
- カビラタバサンゴ(Blastomussa merleti):6個体
- ハナガタサンゴ(Lobophyllia spp.):5個体
- アザミサンゴ(Galaxea spp.):10個体
- ハナヤサイサンゴ(Seriatopora spp.):60個体
- ショウガサンゴ(Stylophora spp.):60個体
- ハナガササンゴ(Goniopora spp.):30個体
ミドリイシを中心にリーフアクアリウムでおなじみの種がならんでいます。左から時計回りに、【1】ミドリイシ、【2】ウスコモンサンゴ、【3】ミズタマサンゴ、【4】ハナサンゴ、【5】トゲサンゴ。これらインドネシア産の養殖サンゴは、両手に載るサイズの大きさで、ペットショップや通信販売での実勢価格は5000円~8000円程度のようです。
2019年の時点で輸入実績のある種は、すでに現地で養殖技術が確立しており、今後も継続して日本に輸入される可能性が高い品種であるといえます。養殖の方法は、原株となるマザーコーラルを分割してクローンの子株を育てる無性増殖法です。リーフアクアリウムでの水槽内飼育による成長と原理は同じです。
CITES Trade Databaseをつかうと、今回のように輸入サンゴの養殖状況がわかります。過去に輸入実績のある品種で直近のデータでも商品の出所(Source)が “W”(野生採取)しかない場合は、養殖技術が確立されていないことを示します。このような品種は、近い将来に規制によって入手ができなくなる可能性が高いでしょう。
補注・参考文献
- 天然採取のソフトコーラルで基盤となるサンゴ岩に付着した状態で輸出入される場合には、イシサンゴ目不特定種(Scleractinia spp.)で生体(Live)区分で記録されていると思われるが、サンゴの種別までは検索できない。
- データベースの運用は、UNEP-WCMC(国連環境計画世界自然保全モニタリングセンター)がCITESから委託を受けて運用している。
- 調査研究用の試料や公的機関による取引を除外した商業目的(T区分)の輸出入情報にもとづく。