サンゴを飼育するリーフアクアリウムでは、石灰藻を増やすことが重要といわれます。なぜでしょうか?
体内でカルシウムを沈着させる石灰藻
赤や紫色のカラフルな色の石灰藻。学術的には紅藻のサンゴモに分類される海産植物です。紅藻のサンゴモに分類される種は、全世界で数百に及ぶとみられています。形態は岩肌を殻皮状に被覆していくものから瘤状や枝状になるもの、葉状になるものなど様々ですが、いずれも表面は石のように固いのが特徴です。体内で炭酸カルシウムを沈着させるためです。体の9割が炭酸カルシウムで構成されているのが特徴です[1]。
リーフアクアリウムでは、ライブロックに付着していた石灰藻が、いつのまにか水槽のガラス面や給排水のパイプ、水流ポンプなどに増殖します。固着した石灰藻を落とすのは、なかなか骨の折れる作業ですが、一方でリーフアクアリウムでは「石灰藻が増える水槽がよい」ともいわれます。その理由はどこにあるのでしょうか?
サンゴ礁を形成する石灰藻
石灰藻は北半球から南半球まで地球上を広く棲息していますが、サンゴ礁に棲息する種についてはサンゴと同じ造礁生物と位置づけられています。石灰藻の生態については解明されていない部分が多く、生育条件は必ずしもあきらかではありませんが、造礁性サンゴ(ハードコーラル)に近いと考えられています。
そこで、石灰藻が元気に育つ環境は、サンゴ礁を形成するハードコーラルにとっても悪くない環境だろうから、リーフアクアリウムでは石灰藻の増殖をひとつのバロメータとしているわけです。
石灰藻が増殖するための水質は、サンゴの飼育で求められる硝酸塩やリン酸などの有害物質がきわめて低いレベルであることが求められると思います。これはハードコーラルの骨格形成と同じく、石灰藻も水質条件が合致しないと、体内での炭酸カルシウムの沈着が阻害されるためであると思われます。
石灰藻はサンゴの共生相手
ところで、同じ条件下で増殖するならば、石灰藻とサンゴは競合しないのでしょうか?
この問いに対して学術的な回答はいまのところないようですが、石灰藻は生きたサンゴを侵蝕することはないようです。逆にサンゴが成長してライブロックの石灰藻を被覆することはよく見られます。
実は、サンゴを含む様々な無脊椎動物の幼生たちは、石灰藻を基盤として着底と変態をして成長します[2]。石灰藻がなんらかの化学物質を分泌して幼生の変態を引き起こしているようです。そして、サンゴの幼生が赤い表面に高い頻度で定着したという研究もあります[3]。サンゴにとって石灰藻の存在は共生の相手なのでしょう。
石灰藻が増えるとコケも減る?
石灰藻がライブロック表面に拡がると、占有した岩肌を他の海藻類(リーフアクアリウムで苔と呼ばれ忌み嫌われるタイプ)が定着するのを阻みます。これは日本の沿岸部でもみられる「磯焼け」と同じ原理ですが、水槽内では苔の抑制にもつながります。石灰藻を増やすメリットのひとつといえるかもしれません。
石灰藻を増やすには水流がポイント
石灰藻は強い照度の光は不要で、水流ポンプなど、水の流れが強い場所に増殖することからも、水質とともに水流がポイントになるでしょう。ライブロック全体に石灰藻を増殖させたい場合には、水槽全体にまんべんなく水の流れができるようにすることが有効と思われます。
石灰藻は水槽の条件が整うと、非常に早いスピードで増殖します。このとき、水槽内のカルシウムは急速に消費されて、カルシウム不足になります。カルシウムリアクターやカルクワッサー(水酸化カルシウム溶液の滴下)で必要な濃度を維持する必要があります。
補注・参考文献
- 藤田大介「サンゴモ類の生態」『Sessile Organisms』日本付着生物学会、16巻1号、17-25頁(1999)
- 馬場将輔「紅藻サンゴモ類の生物多様性」『電気評論』電気評論社、2014年12月号、50-51頁(2014)
- B.Mason, M.Beard, M.W.Miller “Coral larvae settle at a higher frequency on red surfaces“, Coral Reefs vol30, pp.667–676 (2011)